囲碁が強くなる方法

 囲碁が強くなるための方法の話です。
 大層なタイトルにしてしまいましたが、大した話をするわけではないです。
 この記事の対象は初心者からタイゼムで6,7段程度を目指す人です。強い人は温かい目で見守ってください。
 一応僕は元院生でタイゼム九段を持っています。

いい手とは何か

 当たり前の話ですが、"いい手"をたくさん打てるようになれば強くなれます。ならば、いい手とは何かを知らなければ話が始まりません。しかし、何が本当にいい手なのかは誰も知りません。例えば、最近囲碁のAIがこれまでの"いい手"の評価を変えつつあります。
 では、僕たちが目指しているいい手とは何なのか。それは強い人が"いい手"と言っている手です。本当に強い人なら自分の価値観が正しいと思える人もいるかもしれませんが、僕たちのように強くない人は固執するべきじゃないです。強い人がそうだと言ったら基本的にそうなんです。強い人がどっちでもいいんじゃない?と言ったらそこから選べばいいんです。囲碁には正解はありません。僕たちがまず目指すべきは強い人のコピーであって、決して神のみぞ知る最善手ではありません。これからこの記事はどうやったら自分より強い人の感覚に近づけるかという方向で進んでいきます。

各種勉強法について

詰碁

 先ほど囲碁に正解はないといったばかりですが、詰碁にはあります。囲碁ってよくわからない、何を目指せばいいのかわからないという初心者の方も詰碁から始めるといいと思います。
 囲碁が強い人はヨミの力が強いです。あの人よりも詰碁では絶対負けないんだけど囲碁では勝てないというようなことは滅多に起きません。起きていたとしても大抵の場合はすぐに抜かされます。もちろん、ヨセや布石も重要です。しかし、それらも結局はどこかでヨミの力が必要になります。よく若い人は大人よりも成長が速いと言われますが、それは若い人たちは堅実に勝利を目指すのではなく自分のヨミだけを信じてひたすら戦うことで読む力が鍛えられているからだと思います。全ての実力層の人において詰碁を解くことは最も効果的な勉強法の一つです。
 また、難しい問題をひたすら考えて解くのももちろん重要ですが、実戦でよく出てくるような形の典型的な詰碁を素早く正確に解けるように練習するのも重要です。実戦で間違えたらシャレになりませんし(高段者でもたまに間違えます)、もし見たことのある形だったら時間も節約できますし、何よりも安心感を持てます。

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誰しも実践で見たことがあると思いますが、これを全部覚えてる人は少ないと思います(僕も今は忘れました)。

対局

 もちろん、対局で勝つことが目的ですから対局しないと何も始まりません。近くの碁会所に行ってもいいですし、最近はネットでの対局も充実しています。しかしネットで対局するだけではフィードバックが得られないので、やはりどこかで強い人と打って教わる機会は必要です。部活なり碁会所なりいいところを見つけましょう。
 対局を検討することはとても勉強になります。実際にその盤面で自分が考えた結果がよかったのか、これからどう修正すれば強くなるのかがわかるからです。また、検討できなかったとしても相手の良かった手を覚えて次に使ってみたり、自分が悪くしたなと思うところを修正するなどということは積極的にするべきです。
 また、3段以下ぐらいの人は、あまり形勢など気にせず、積極的に戦いを仕掛け、自分が自分なりに考えて一番正しいと思うところに打つように習慣づけたほうがよいです。正直、3段程度の人の対局では数十目の差は一瞬でひっくり返ります。そのような段階で形勢などを意識しても効果が薄いですし、成長もあまり見込めません。自分が正しいと思う手を打って、うまくいかなかったらそのときに学べばよいですし、その繰り返しによって読みの力が鍛えられて強くなります。

棋譜並べ

 棋譜並べはいらないという意見もありますが、僕はやったほうが良いと思います。というのも、この記事の目標は強い人のコピーになることだからです。しかし、あくまでも自分の分かる範囲内で棋譜を理解しようとすることが重要です。ただ単に棋譜を並べていても意味がありませんし、解説を読んでわかった気になってもあまり効果がないです(わざわざ解説に書かれるようなことを本当に理解できるのは高段者以上になってからのことが多いです)。初心者のうちは、星にかかられたらプロはどう受けているのか、ヨセのとき一線のハネツギをプロはいつ頃、どのように打っているのかなどから始め、吸収できるところを吸収していけばいいです。全然わからないところや既に知っているようなところはスイスイと並べてしまって、何か得られそうだと思ったところで集中するべきです。プロだって全部正しい手を打っているわけではないので、一局を理解するというのを不可能ですし、あまり意味がないことです。自分が真似できる部分だけをうまく拾って生かそうとする姿勢が重要です。

その他

 基本的には上記の3つを繰り返すことになるのですが、それだけではどうしても抜け落ちてしまうところがでてきます(例えば、ヨセがうまくいかないや、定石がわからない、など)。検討で学んだり棋譜から読み取ったりするのが一番なのですが、どうしても重点的に強化したいと思うときは本を読むとよいかもしれません。

弱い人によく見られる傾向について

石の形が悪い

 これは全ての実力層の人に言えることです。石の形はとても重要なのですが、習得が難しいです。空き三角や団子石が愚形などというようなものは覚えればよいですし、対局をしていれば学習できるのですが、実際にはもっとたくさん石の形には良い悪いがあり(石が重い、薄いなど場面場面によって変わるので一概には言えません)、その感覚は強い人に矯正してもらえる人は身につきやすいのですがそうでない人はなかなか身に付きにくいです。最近は石の形に関する本もたくさんあるようなので参考にするのもよいかもしれません。

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上の三つは形が悪く、下の三つは形がよいです(あくまで一般的に、です)

効きを残さない

 これは4,5段以上の人対象ですが、僕がよく感じるものして、効きを残しておくというものがあります。強い人の対局を見ていると、まだそこ終わってないのに他の場所に行ってしまうの?と思うことがあると思います。これは効きを残しているということなのですが、これをできない人が多いです。勿論、戦いの途中で他の場所に打ってしまうのは論外なのである程度強くなるまでは効きを残すということはそこまで意識しなくていいのですが、効きを残すというのは非常に重要な考え方です。効きを残すというのはどういうことかというと、今一つの形を決めてしまうのではなく複数の候補を残しておくことで、もう少し局面が進んでから最もよいものを選択することができるようにしようという考え方のことです。もし、相手がその場所を次に打たないのならばそこに今自分が打つ必要はないわけです。よって、相手が次にその場所に打たないと判断されるときはその場所を放置するというのが効きを残すということであり非常に効果的です。また、これを行うようになると盤面のあちこちが未完成になり、盤面全体が複雑になってきて、より囲碁が面白くなってきます。もし自分が4,5段以上あり、囲碁が単調だなと感じる人は意識するとよいと思います。

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上の二つは、後の楽しみをなくしてしまう悪手であり、下のノゾキはよい手であると一般に言われています。
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〇にキリたくなりますが、将来にはAのほうから打って全体を攻めたくなるかもしれません。白が〇を守りたいと思うまでは黒も急いでキリを打つ必要はないわけです。

定石を知らない

 僕は高段者になるまでは積極的に最新の定石を覚えたり、研究したりする必要はないと思いますが、頻出のパターンについてはどう対処するかぐらいは定石として覚えておくべきです。そうでないと、相手だけが既にある程度のよい手を知っている状態で打つことになるので不利になりやすくなってしまいます。また、少し難しい定石を本などで知ったからといって安易に使うべきではありません。そのような定石を使うときはしっかりと一手一手吟味して、相手がどのような手で来てもある程度対応できるようにしておく必要があります。そうでないとかえって悪くしてしまうことがあります。しかし、いくら定石を勉強していても対局をしているとどうしても知らない手を相手が打ってくることがあります。そのときはそのときで、それこそが囲碁の楽しさなので自分なりに考えて対処し、対局後などにその手について考え、自分の知識に加えておけばよいです。

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各隅について、〇が主に次に打たれる候補です。長い定石は数十手に及ぶので気が遠くなるような量があること明らかですが、新しい定石を調べて、実際に使ってみて(重要)を繰り返すと意外とすぐ身に付きます。

ヨセが弱い

 ヨセというのは難しい世界で、正しいと思われる手がはっきりしているだけに実力差が顕著に出ます。僕たちが意識するべきは、その場その場で最も大きい手を打つことです*1。強い人はヨセのときにあの手は何目、この手は何の何分の何目とかやっていますが、そんなことはまだ必要ありません。それよりも、低段者までのときに必要なのは盤面全体を見て、今自分が最も大きいと思っている手よりも大きい手が存在しないかをしっかりと確認することです。強い人は短い時間で次打つべき候補を絞ることができますが、そうでないと候補がたくさんあるように見えてしまうと思います。それらをしっかりと吟味して最もよさそうな手を選ぶのが大切です。

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とてもわかりやすい盤面ですが、これでも十分ヨセは難しいです。僕も最適なヨセはわかりませんが、大切なのはヨセとなりうる手を全部吟味することです。

盤面全体が見えていない

 誰にでもあることですが、ついつい盤面の一部だけに集中してしまうことがあると思います。よく、姿勢をよくすればよい、一手打つ前に盤面を眺めろなどと言われますが、なかなか難しいものです。特に、弱い人は相手が打ったところの近くに打ちたがります。相手も自分程度の実力なわけですから相手が主張していることを鵜呑みにしていては勝てません。局面において直近でどこに打たれたというのは全く意味のない情報です。相手がどこに打ったかにとらわれず、しっかりと盤面を見渡すことが大切です。

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黒が〇に打てば二子取れますが、もっと広いところに打ちたくなります。しかし、右下を連打した後だと初心者のうちは続けて右下に打ちたくなってしまいがちです。

勝つ構想を練っていない

 対局の目標は勝つことです。しかし、人によっては自分がどうやってその碁を勝とうとしているのか意識していないことがあります。その場その場において最もよさそうな手を選ぶということを繰り返すだけで、どうやって勝つのかの構想を練れていないとうまくいきません。例えば、対局前に厚みを作って中央に地を付けて勝つぞと考えておく、などです。勿論、その通りに相手がさせてくれないのが普通です。自分の構想を相手が邪魔して来たら、その場その場でこれからどうやって勝つのかを考えます。邪魔してきた石を取って勝つぞ、上辺を全部自分の地にして勝つぞ、相手のこの地を荒らして勝つぞ、など色々とあると思います。
 特にこれは初心者の方に向けてですが、囲碁というのは相手の石を取るゲームではなく、地を囲うゲームです。よって、最初に考えるべきはどこに地を作るかであって、最初から相手の石に自分の石をぶつけて取りに行くのはおかしなことです。自分が制圧しようとしているエリアを相手が著しく妨害して来たらそれを取りに行けばよいです。その際には周囲に自分の石が比較的多くあるはずですから優位に戦えるはずです。どのあたりから"著しい"のかというのは難しい問題で、いくら強くなっても難しいので自分の感性に頼るしかないです。

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Aはこのまま地を稼いで勝とうというプラン、〇は一気に黒地を荒らしてカタをつけようというプラン、■は黒模様を削って地で勝つというプラン、▲は■よりは少し消極的なプランです。自分の描くプランを元に着手を考えるのが大切です。

相手の手を信じてしまう

 特に、自分よりも強い人と対局するときに、相手が着手で主張していることをそのまま鵜呑みにしてしまうことがあります。しかし、それでは相手の言いなりになっているだけで勝てるわけがありません。もちろん、相手の主張が正しいこともありますし、そこで反発するとすぐにつぶれてしまうかもしれません。しかし、自分の読みで相手の主張がおかしいと感じたのならば例え相手が誰であろうと反発するべきです。そこで潰れてしまったらそのときに学べばよいですし、いずれにせよそのような場面で引いていては勝てないですし、成長も望めません。置き石の多い指導碁などでもよくあることですが、置き石が多いと相手の言いなりになっていても勝ててしまうことがあると思います。しかし、それでは置き碁の意味がありません。せっかく有利な状況を作ってもらっているわけですから、積極的に自分が正しいと思う手を打つべきです。勝てることは少なくなるでしょうが、学べることは圧倒的に多くなるはずです。

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すぐに〇に受けてはいけません。まずは反発する手である■を考えて、それがダメそうであればそれから〇を考えるべきです。▲のように遠巻きに圧力を与えつつ辺も確保するという手を考えてもいいかもしれません。

おわりに

 いろいろと書きましたが、もちろん全部できるようになったら神ですし、僕もできないことがたくさんあります。自分が特に弱いなと思う箇所を適宜補強していけば徐々に強くなっていくはずです。
 人間の学習能力というのは怖いもので、囲碁をやっているといわゆる"感性"というものが育ってきます。囲碁においてこの感性を身につけることは非常に重要で、例えば8,9段あるような人が一手5秒で打ったとしても5,6段の人が一手5分10分使おうが滅多に負けません。じゃあどうやって感性を身につけるかですが、僕にはわかりません。とにかく囲碁に関することをやりまくるしかないと思います。楽しめる範囲で頑張りましょう。

 詰碁が軽視されている気がしたのでpart2
gasin.hatenadiary.jp

*1:厳密には最も大きい手が最善手とも限らないのですがそれはもっともっと強くなってから考えることです